よく読むし大好きなのに、瀬尾まいこさんの作品は紹介しようとするといつも少しむずかしく感じます。
独特の設定、個性豊かな登場人物、ユーモアのある会話。どれも温かいはずなのに、読み終えるとふっと狐につままれたような不思議さが残る。そんな“つかみどころのなさ”が、気づけば癖になってしまう作家さんです。
今回は、その中でも特に心に残っている3冊を選びました。どれも読み終えたあと、そっと誰かに渡したくなる物語です。
戸村飯店青春100連発
兄弟が離れて家族の思いに触れる一年
大阪の下町にある中華料理店・戸村飯店。そこで育った年子の兄弟ヘイスケとコウスケは、噛み合わないまま距離を抱えて暮らしてきました。兄は「小説家になる」と東京へ、弟は店を継ぐつもりで大阪に残ります。
格好良くて要領がいいはずなのに自分の気持ちに気付かないヘイスケと、 まっすぐすぎるコウスケ。ふたりの不器用さとズレが、離れて過ごす一年のあいだに、人との出会いによってほぐされていく過程がとても良い。
とくに、クラス対抗合唱コンクールで、指揮者を務めるコウスケに対し、ピアノ伴奏を担当した北島君の大阪弁で繰り広げられる会話が秀逸なんです。
思わず笑ってしまうのに、その言葉のやり取りがコウスケの人生を変えてしまうほどで、読んでいてハッとさせられます。
瀬尾まいこさんにしては笑いに走っていて、他の作品とは少し毛色が違うけれど、瀬尾さんの作品の中でいちばん好きです。
こんな人にぴったり
- 家族の距離感がゆっくり変わっていく物語が好きな人
- 笑いと温かさを同時に味わいたい人(大阪弁の掛け合いが好きなタイプ)
- 兄弟もの・成長ものを読みたいけれど重すぎる話は苦手な人
傑作はまだ
突然現れた息子と不器用な父の同居の日々
引きこもり気味の小説家・加賀野のもとに、生まれてから一度も会ったことのない二十五歳の息子・智が突然現れます。月に一度の養育費と写真だけでつながってきた二人は、ぎこちないまま同居を始めることに。
世間知らずな父と、明るく生活力のある息子。 立場が逆転したようなふたりの関係が、少しずつ“家族”になっていく過程がとてもやさしい。
智が教えたことを一生懸命守る父の姿は、なぜか可愛らしく映り、読んでいるこちらまで頬がゆるみます。 家族の絆というよりも、父の意識改革のほうが強く印象に残りました。
最初は感じが悪い人だったのに、良い人というより“変わったおじさん”になっていく感じが面白いんです。
こんな人にぴったり
- 不器用な大人が少しずつ変わっていく姿に弱い人
- 家族をテーマにした物語を、重くなくやさしい温度で読みたい人
- 父と息子の関係性にほっこりしたい人
僕らのごはんは明日で待ってる
正反対なふたりの距離が縮まっていく時間
無口で他人に興味を示さない亮太と、明るく思ったことをすぐ口にする小春。 高校の体育祭で“米袋ジャンプ”に出場したことをきっかけに付き合い始めたふたりは、食事を通して少しずつ距離を縮めていきます。
この作品には“死”という重たいテーマが含まれているのに、ふたりの独特のテンポの会話が、読み進めるほどに「この二人なら、きっと大丈夫」と思わせてくれるんです。
そして何度読んでもほっこりしてしまうのが、葉山くんの“欲張りタイ魅惑の4日間”ツアー。 おばちゃんたちとの掛け合いが絶妙で、読み返すたびに「早くこの場面が読みたい」と思ってしまう名シーンです。
こんな人にぴったり
- ふたりの距離が縮まる瞬間をじっくり味わいたい人
- 重たいテーマがあっても、読後は前向きになれる物語が好きな人
- 食事シーンや会話のテンポでキャラクターの魅力を感じたい人
おしまいのひとこと
瀬尾まいこさんの作品は、どれも読み終えたあとにふっと心が軽くなる物語です。 今回の3冊は、とくに“人との距離がやさしく縮まる瞬間”が印象に残るものばかり。
気になる一冊から手に取ってみてください。

