本ページにはプロモーションが含まれています。あわせて、作品紹介は筆者の主観による内容となりますのでご了承ください。
上橋 菜穂子さんという作家をご存じでしょうか。
私は、書店でふと目にした「2014年 国際アンデルセン賞」のポスターがきっかけで、彼女の物語の世界に足を踏み入れました。
最初は、写真の雰囲気だけで “昔ながらの説教くさい物語なのかな…” と勝手に思い込んでいたのです。
けれど、その先に広がっていたのは、そんな偏見を一瞬で吹き飛ばす、圧倒的な生命力に満ちた物語でした。
登場人物たちは、壮大な世界の中で迷い、傷つき、それでも懸命に生きようとします。 その姿は、読んでいる私たちに「人はどう生きるのか」という問いを、押しつけるのではなく、そっと手渡してくれるようでした。
新しいとか古いとか、そんな尺度では測れない。 彼女にしか描けない “世界の息づかい” が確かにあります。
深い世界観に浸りたい方。 成長や絆の物語に心を揺さぶられたい方。 やさしさと強さが同居する物語を求めている方。
そんな読者にこそ、上橋 菜穂子さんの作品を手に取ってほしいと思います。
精霊の守り人
タンダとチャグムが支える“生きる物語”
『精霊の守り人』の作品全体、主人公・バルサの魅力を綴ったものはこちらをお読みください。今回はこの物語に欠かせない二人の男性を紹介します。
まず一人目は、バルサの幼馴染であり、森で薬草師として暮らすタンダ。物語の中で彼は、バルサと食事を共にし、傷を癒し、黙って寄り添うように世話を焼く、まるで長年連れ添った伴侶のような存在です。
小説の中で明確に「夫婦」と書かれているわけではありません。だからこそ、子どもの頃には気づかずに読み流してしまった二人の関係性に、大人になってから胸がときめきました。
そして二人目は、新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグム。精霊の子を宿した “不吉な存在” として実の父に命を狙われながらも、バルサに守られ、真っ直ぐに育っていく聡明で利発な少年です。
彼は『精霊の守り人』以降のシリーズにもたびたび登場し、ときには主役として物語を牽引するほど重要な人物になります。※チャグムが主人公の巻は、タイトルが『守り人』ではなく『旅人』に変わるのも印象的。
荒れ果てた世界の中で、次代の王として自らの意志で歩み出すその姿には、胸を締めつけられるような強さがあり、読者として思わず背中を押したくなります。
王となるチャグムとバルサたちが交わることはもうありません。タンダとバルサが遠く離れた地で、彼の身を案じ見守る姿を想像するだけで、もの悲しいけれど温かい気持ちになります。
こんな人にぴったり
- 強さと優しさが同居する物語に触れたい人
- 成長していく少年の姿に胸を打たれたい人
- 世界観の奥行きと人の営みをじっくり味わいたい人
鹿の王
喪失から始まる新しい家族のかたち
『鹿の王』は、黒狼熱から唯一生き残った元戦士ヴァンと、病の正体を追う医術師ホッサルの物語です。
黒狼熱を宿すキンマの犬がなぜ人々を襲うのか、その謎を軸に物語は進んでいきます。ただ、この作品の魅力は謎解きだけではありません。
妻子を失い、生きる意味を見失っていたヴァンが、みなしごのユナを育て、旅の途中で出会ったトマ一家と触れ合うことで、少しずつ心を取り戻していく姿が丁寧に描かれています。
とくに、トマの母・季耶に向けた「この人は身内だ。もはや身内なのだ……」という言葉が胸に残ります。ユナをきっかけに、ヴァンの世界に大切な人が増えていく。その変化が温かくて、思わず「よかったね」と言いたくなります。
もう一人の主人公ホッサルは、冷静で頭が切れる医師ですが、心を許した相手にはどこか子どもっぽい一面もあり、憎めない存在です。彼の視点が物語に知性と軽やかさを与えています。
この物語は、病と政治の渦中で「生きること」「守ること」を問いながら、人が再び誰かを大切に思えるようになる過程を描いた物語だと感じました。
こんな人にぴったり
- 喪失から立ち上がる物語に弱い人
- 家族のかたちが変わっていく過程を丁寧に読みたい人
- 医術・政治・謎解きが絡む重層的な物語を求めている人
香君
香りが導く未来と静かな強さ
最後に紹介したいのは『香君』です。人並み外れた嗅覚を持ち、植物や虫が発する “香りの声” を聞き取る少女・アイシャが、人々の飢えを救い、国同士の争いさえも未然に防いでいく物語です。
この作品を選んだ理由は、物語としての完成度の高さに尽きます。上橋 菜穂子さんの作品の中でも、私はアイシャがもっとも思慮深く、賢さが際立つ人物だと感じています。
『精霊の守り人』のバルサのように短槍を振るうわけでも、『鹿の王』のヴァンのように飛鹿を駆るわけでもない。派手な動きはないのに、彼女は静かに、しかし確実に根回しをし、時に権力者さえねじ伏せていく。その姿には、執念のようなものが宿っています。
そして何より圧巻なのが、植物や虫たちの描写です。
香りの質感、生命の気配、世界の息づかいがページから立ちのぼるようで、読んでいると鳥肌がぶわりと立つ瞬間が何度もあります。虫が苦手な方は、思わず身じろぎしてしまうかもしれません。
こんな人にぴったり
- 静かな強さを持つ主人公に惹かれる人
- 香りや植物・虫の描写に没入したい人
- 派手さよりも“賢さと根回し”で世界を動かす物語が好きな人
おしまいのひとこと
今回はおすすめに入れませんでしたが、まずは気軽に読みたい方には『狐笛のかなた』を、上橋菜穂子さんご本人の人柄に触れてみたい方にはエッセイから入るのも素敵だと思います。


