※本ページにはプロモーションが含まれています。
日々の暮らしの中で、ふと胸に残るのは、家族とのささやかな記憶だったりします。
家族小説が多くの人の心をつかむのは、派手なドラマよりも、そんな “当たり前のようで当たり前ではない” つながりを丁寧に描いてくれるから。
すれ違い、葛藤、そして小さな和解。その積み重ねが、読者自身の思い出や感情をそっと呼び起こし、気づけば物語の中の家族と一緒に息をしているような気持ちにさせてくれます。
変わらないようでいて、少しずつ変わっていく家族の姿に触れると、心の奥に温かなぬくもりがともる。そんな不思議な満足感こそが、家族小説の大きな魅力なのかもしれません。
[合わせて読みたい]
そして、バトンは渡された
/ 瀬尾 まいこ
(文春文庫)
再婚・血のつながらない・心温まる
高校生の森宮 優子は、幼い頃から何度も親が変わる家庭で育ってきました。血のつながりはなくても、彼女を大切に思う大人たちが “バトン” のように優子を託し合い、今の父・森宮さんのもとへつながっていきます。
2019年の本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』。その題名の真意に触れた瞬間、胸の奥で何かがほどけ、深い感動が押し寄せてきました。
現実ではまずあり得ない、父親の再婚相手が子どもを連れて再婚を繰り返すという、少し間違えば犯罪すれすれの設定。それでも物語は決して暗くならず、むしろ温かさに満ちているのは、瀬尾 まいこさんの筆が、登場人物たちの不器用な愛情をやさしくすくい上げているからだと思います。
奇跡のような設定さえ、読後には「こういう愛の形もあっていい」と思わせてくれるのが、この作品のすごさです。
とんび / 重松 清
(角川文庫)
昭和・父と息子・感動
父・ヤスは最愛の妻を事故で失い、男手ひとつで息子・アキラを育てることになります。不器用で空回りばかりのヤスですが、周囲の温かな支えに助けられながら、必死に父親として向き合い続けます。成長したアキラは、そんな父の不器用な愛情の深さに気づき、親子は互いの想いを確かめ合っていきます。
一口にシングルファザーと言ってしまうと現代的に聞こえますが、彼にはその言葉がどうにも似合いません。良くも悪くも昭和の父親そのもので、声は大きく、動きはがさつ。初対面ではワガママか偏屈に見えるかもしれません。それでも、息子に向ける不器用で真っ直ぐな愛情は、胸の奥をじんわり温めてくれます。
そして、そんな二人をそっと支える周囲の人々の情の深さがまた沁みるのです。とくに薬師院の海雲住職の言葉や振る舞いは、厳しさの中に温もりがあり、読むほどに心に残ります。
アンマーとぼくら / 有川 ひろ
(講談社文庫)
沖縄・帰省・母と息子
リョウは母の予定に付き合うため沖縄へ里帰りします。亡き父と過ごした思い出の場所を三日間めぐるうちに、時間がゆらぐような不思議な感覚に包まれます。限られた休暇の中で、自分に与えられた三日の意味を静かに見つめ直していきます。
沖縄の方言で「アンマー」とは、”おかあさん” という意味です。この物語では、父親と再婚した春子さんのことで、二人で巡る沖縄の名所は、読んでいるこちらまで行きたくなるほど鮮やかに描かれています。
さらに、現在のリョウと過去のリョウが交差するファンタジー要素が、物語に深い陰影と広がりを与えています。
きみと暮らせば / 八木沢 里志
(徳間文庫)
兄妹・二人暮らし・ほのぼの
十年前に陽一の母とユカリの父が再婚し、二人は兄妹になりましたが、五年前に両親を亡くし、支え合って暮らしています。中三のユカリは義母のレシピ帳で料理を作り、陽一は働いて生活を守ります。ある日、庭に現れた猫を届けに行くことになり、のんびり兄としっかり妹の温かな日々が動き出します。
特別な事件が起こるわけではありません。猫との出会いやおいしいごはん、知り合いの畑を手伝うひとときなど、日々の小さな幸せが心を満たしてくれます。
血の繋がらない兄妹という設定でも、安易に恋愛へ傾かず、あくまで家族としての絆が丁寧に描かれているところがとても心地よいです。その穏やかな距離感が、物語全体の優しさをより際立たせています。
週末は家族 / 桂 望実
(朝日文庫)
児童養護施設・親子の演技・殺伐
大輔と瑞穂は、小劇団を営みながら週末だけ里親として小学生のひなたを預かることになります。天才的な演技力を持つひなたをきっかけに、三人は少し風変わりな人材派遣の仕事を始め、事情を抱えた夫婦と親に捨てられた少女が、共に過ごす中で新しい家族の形を見つけていきます。
ただ、最初の彼らは決して温かい関係ではありません。大輔と瑞穂は「何かあったときに便利だから」という打算で夫婦になり、ひなたの才能も “使える” と判断して迎え入れる。ひなた自身も、息苦しい施設から抜け出すために二人を利用している。利害だけで結びついた、どこか殺伐とした関係性に、読み始めた当初は嫌悪感すら覚えました。子どもを営利目的で扱うなんて最低だ、と。
けれど読み進めるほどに、これは単なる搾取ではなく、奇妙な形の「Win-Win」なのかもしれないと思わされます。不器用で、問題だらけで、それでも必死に選び取った “家族” という答え。その歪さがむしろ、「家族とは何か」という問いを強く揺さぶってくるのです。
だからこそ、数年後の彼らがどんな関係を築いているのか、続きを読んで確かめたくなります。




コメント