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小説家・八木沢 里志さんの、温かくて優しい雰囲気の作品が大好きです。『森崎書店の日々』を読んだことをきっかけに、刊行されている作品は多くないものの、すべて一気に読みました。
その後は新作を楽しみに気長に待っていたのですが、なかなか発売されず、Googleでお名前を検索しても情報が出てこなかったため、失礼ながら執筆を辞められたのか、あるいはお亡くなりになったのかと心配していました。
ところが最近になって、八木沢 里志さんのブログ『やぎさわ便り』を発見しました。どうやらスランプに陥っておられたとのこと。さらに、新装版という表記に惑わされて見落としていたのですが、『純喫茶トルンカ』の続編が今年の十月に出版されていたことも知り、とても驚きました。
これからも新作を読めることに安堵しつつ、私の好きな作品BEST3を発表します。冊数がまだ多くないので気負わずに選べますし、どの作品を読んでも本当に面白いです。
第1位 きみと暮らせば (徳間文庫)
両親を亡くした兄妹・暮らし・ほっこり
陽一とユカリは、十年前に兄妹となり、五年前に両親を亡くしてからは二人で支え合いながら暮らしています。中学三年生のユカリは、義母が残したレシピを頼りに毎日の食事を作り、陽一は働いて生活を守る。そんな静かで温かな日常が続いています。ある日、庭に迷い込んだ一匹の猫をきっかけに、二人の暮らしにほんの小さな変化が生まれます。
実をいうと、この二人は親の再婚によって兄妹になったため血の繋がりはありません。特別に溺愛しているわけでも、冷え切っているわけでもない、心地よい距離感を保った関係です。
私が特に好きなのは、ユカリが隣家のおじいさんの代わりに畑の世話をするエピソードです。真っ黒になりながらも楽しそうに土に向き合うユカリの姿は、わずかな美白にしがみつき「面倒だ」と文句を言ってしまいそうな私には、とても眩しく映りました。そして、ユカリが収穫した野菜を陽一が美味しそうに食べる場面も、二人らしい優しさが滲んでいて微笑ましいです。
何度でも読み返したくなる兄妹なので、ぜひ続編が出てほしいと思っています。
第2位 森崎書店の日々 (小学館文庫)
古書店・失恋を癒す・出会い
失恋と退職が重なり、心身ともに深く傷ついた貴子は、しばらくのあいだ泣いて過ごす日々を送ります。そんな折、神保町で古書店を営む変わり者の叔父・サトルから「店に住みながら手伝ってほしい」と連絡が入ります。家出した妻に去られ、ひとり残された叔父の申し出に応えるようにして、貴子の新しい生活が静かに動き出します。
サトル叔父さんは、貴子に居心地の良い場所を差し出し、ときには彼女のために本気で怒ってくれる人です。時間が経てば傷も少しずつ和らいだと思いますが、自分の気持ちにけりをつけれたのはサトル叔父さんがいる森崎書店だからこそ。
古書店での日々は、これまで手に取ったことのない本との出会いに満ち、語り合える友人ができ、やがては同じ趣味を持つ恋人との縁にもつながっていきます。
最近は電子書籍を読むことが多くなりましたが、こうした物語に触れると、紙の本を手にしたときの重みや温度を、もう一度ゆっくり味わいたくなります。
第3位 純喫茶トルンカ (徳間文庫)
喫茶店・人とのつながり・しみじみ
東京・谷中の路地裏にひっそりと佇む小さな喫茶店「純喫茶トルンカ」を舞台に、三つのあたたかな物語が紡がれます。日曜日にだけ姿を見せる女性とアルバイト青年の淡い恋、自暴自棄になった中年男性とかつての恋人の娘との切ない交流、そしてマスターの娘・雫が不器用に育てていく初恋が、コーヒーの香りとともに静かに胸に沁みてきます。
飲食店が背景にある物語が個人的に好きなのですが、「純喫茶トルンカ」は美味しい珈琲こそ登場するものの、料理を主題にしたグルメ小説ではありません。人と人が触れ合う瞬間を丁寧に描いた作品で、八木沢さんの作品の中では切なさがやや強めです。少し読みづらさを感じる場面もありますが、読み終えたあとにはやわらかな温かさが残ります。
作中に登場する “ナプキンバレリーナ” を自分でも作れたら、ちょっとした自慢になりそうです。



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