本ページにはプロモーションが含まれています。あわせて、作品紹介は筆者の主観による内容となりますのでご了承ください。
ミステリーを読んでみたいと思いながら、途中で挫折してしまったり、「むずかしい…」と感じてしまう人は、きっと少なくないと思います。
私もその一人で、ちゃんと読んでいるつもりなのに、気づけば細かな伏線を忘れてしまったり、ラストの謎解きでぽつんと置いていかれてしまうことがあります。理解力なのか集中力なのか、自分でもよくわからないまま。
それでも不思議とミステリーを嫌いにはなれなくて、むしろ近藤 史恵さんの作品だけは夢中で読んでしまいます。
彼女の文章は、デビュー初期をのぞけば驚くほど軽やかで読みやすくて、まるで映画やドラマを観ているような自然さで物語に入り込めます。
謎そのものよりも “人” にそっと焦点が当たっているところも、好きになってしまう理由なのかもしれません。
タルト・タタンの夢 / 近藤 史恵
ビストロと三舟シェフと小さな謎
小さなフレンチ「ビストロ・パ・マル」には、寡黙な料理長の三舟、温厚な副料理長の志村、明るいソムリエの金子、そして新人ギャルソンの高築が働いています。
フランス料理を愛する客たちが集まり、時には少し不思議な悩みを抱えて訪れる。三舟は料理の知識と鋭い推理で、その謎を静かに、でも鮮やかに解き明かしていきます。
近藤史恵さんといえば、やっぱりこのシリーズがいちばん好きです。 『ヴァン・ショーをあなたに』『マカロンはマカロン』『間の悪いスフレ』など、どの作品にも美味しそうな料理と気さくな従業員たちが登場し、店内の空気までふわりと伝わってくるようです。
“料理の謎” を解くというより、食にまつわる知識や背景が自然と深まっていく心地よさがあって、読むたびに ああ、この世界が好きだな と感じます。
すべてがハッピーエンドで終わるわけではなく、時には少し苦味の残る後味もあります。でもそのぶん登場人物の人間らしさが際立ち、物語にそっと寄り添いたくなる瞬間が生まれます。
こんな人にぴったり
- 料理の香りがする物語が好きな人
- “人の温度”を感じるミステリーを読みたい人
- 軽やかで余韻のある一冊を探している人
賢者はベンチで思索する
国枝老人と久里子と可愛い犬
ファミレスで働く久里子は、窓際で静かに長い時間を過ごす常連客・国枝老人と、いつしか自然に言葉を交わす仲になっていきます。
そんなある日、公園で毒入りの犬の餌がまかれる事件が続き、久里子の愛犬アンも巻き込まれてしまいます。
命は助かったものの、犯人はわからないまま。胸のざわつきが消えない久里子の前で、そっと真相に歩み寄ろうとするのは、意外にも国枝老人でした。
人と人がゆるやかにつながっていく不思議さが、日常の風景の中にそっと息づくミステリーです。
国枝老人は、久里子の何気ない言葉から状況を読み取り、彼女自身が答えに近づけるよう静かに寄り添う人物です。洞察力の鋭さをひけらかすことはなく、ただ長い人生で培われた温かさと品格がにじむ。その佇まいに、読んでいて思わず息をのみました。
そして忘れてはならないのが、久里子の愛犬・アンとトモ。二匹の仕草や表情がとにかく愛らしく、ページをめくる手をふっとゆるめてくれます。
続編『ふたつめの月』ではその魅力がさらに増していて、犬好きにはたまらない幸福感がぎゅっと詰まっています。久里子にとって、かけがえのない相棒たちです。
こんな人にぴったり
- 静かな日常系ミステリーが好きな人
- 人のつながりや寄り添う姿に弱い人
- 犬が物語の大切な存在であってほしい人
サクリファイス
ロードレースと青春の熱と影
白石 誓は陸上から自転車競技へ転向し、プロチームのアシストとして各地を転戦します。
ヨーロッパ遠征のさなかで思いがけない悲劇に向き合うことになり、仲間への献身、ライバルとの駆け引き、そして元恋人との再会を通して、揺れる心が少しずつ形を変えていきます。
スポーツの熱とミステリーの静けさ、そのどちらの醍醐味も味わえる本作は、『エデン』『サヴァイブ』『キズアマ』『スティグマータ』へと続く重厚なシリーズの幕開けにふさわしい一冊です。
ロードレースにすべてを懸ける若者たちの情熱、自転車で風を切るあの爽快さ。
高揚の裏側では、冷静さを強いる “真相” がひっそり息を潜めています。スピード感と緊張感が同じページの中で寄り添う、この独特の読書体験は、なかなか他では出会えないものです。
こんな人にぴったり
- スポーツの熱とミステリーの静けさを味わいたい人
- 青春の揺れや葛藤に惹かれる人
- シリーズの入口として強い一冊を求める人
おしまいのひとこと
ふっと肩の力が抜ける読み心地なのに、読み終えたあとにはそっと余韻が残る。そんな近藤 史恵さんらしさがぎゅっと詰まった3冊でした。
どの物語にも、人の温度がちゃんとあって、ミステリーなのに心がやわらかくなる瞬間があります。
気軽にページを開けて、気づけば物語の中にすっと入り込んでいる。そんな読書時間を求める人に、そっと手渡したくなるラインナップです。

